概要

■ 米国漫画項:概要

■ アメコミって何さ?

アメリカの漫画です.以上.

というのは冗談ですが,それ以上でもそれ以下でもないと思えます.みなさん,何らかの御縁で数限り無くあるWEBの世界からこのページを発見してくださったのですから,少なくともアメコミに関して何かしら興味,関心があることと思われます.でも,最初からアメコミに詳しい人や,なんだか分からないけどちょっと興味があるという人まで色んな方がいらっしゃるはずなので,まずは軽くアメコミとは何をさす言葉なのかを歴史を見ながら説明させていただきますね.

アメコミ.アメリカン・コミックの略です.勿論,アメリカの人が自国の漫画をアメコミなんて呼ぶわけがないので,これは日本の言葉です.単に「アメコミ」って言ってしまうと,日本文化の手垢にまみれた概念になってしまいますので,ここではコミックと呼ばせてもらいますね.コミックの起源は壁画であるとかヒエログリフであるとか考古学的な見解もあるのですが,いわゆる紙媒体でキャラクターがいて台詞をしゃべるというレベルでのコミックは19世紀に始まります.それまで風刺絵などが描かれていた新聞にYellow Kid.という可愛いキャラクターが登場します.1896年のことです.黄色い衣装に丸坊主のこの愛らしいキャラクターはある程度の人気をえましたが,成功と呼べるものではありませんでした.しかし,時は過ぎ1930年代に入ると幾つかのコミックの専門紙があらわれるようになります.最初に登場したのは,Funnies on Paradeというものでした.Funniesが成功をおさめるとそれに続くようにコミック雑誌が発表されるようになりました.その中には,今でも有名なPopeyeや,映画にもなったDick Tracy,Phantom, Little Nemoなどがあります.コミックの黎明期です.この頃はまだ良い意味で牧歌的な作品が多くあったのですが,1938年,あるコミックの登場でその後のコミックそのものの方向性が決定してしまいました.そう,みなさんお馴染みのスーパーヒーロー,Supermanです.SupermanはACTION COMICSという誌名で登場.それまでも悪と戦うヒーローという構図は珍しくはなかったのですが,Supermanほどの超人的な力はもっておらず,彼の登場によってスーパーヒーローものがコミック界のメインストリームとなっていきます.ACTION COMICSを発刊したDC Comics社は,更に翌年,DETECTIVE COMICS #27でBatmanを世に送りだします.そしてヒーローものは勢いをつけ,Funniesで成功をおさめたスタッフによるTimely Comics社(後のMarvel Comics社)も,Prince Namor the Submarinerや,Human-toach, Ka-Zar, The Angel など,次々とヒーローを登場させていきます.Superman登場から数多くのスーパーヒーローコミックが生まれたこの時代を特にGolden Ageと呼びます.Golden Ageでは上にあげた他に,Captain AmericaやShazam, Green Lantern,Wonder Woman,The Flashなど現在でも人気を維持し続けるヒーロー達を輩出しています.しかし,これらのヒーロー達も第二次大戦という現実世界の大事件とは無関係ではありえず,戦意高揚の為のプロットを余儀なくされる時期もありました.ナチスを殴りつけるCaptain Americaの初登場はそんな時代を象徴しているともいえます.

戦後,スーパーヒーローものはまだ人気はありましたが,Golden Ageほどのものではなく,新たに西部ものやロマンスものやホラーもの,戦争ものなどのジャンルが台頭してきます.そして徐々にスーパーヒーローものの影はうすくなっていきました.しかし,1956年,DC ComicsのSHOWCASE #4で,かつてGolden Ageで人気を博したThe Flashが全く新しいキャラクターとして描かれ大成功.Golden Ageのヒーロー達は新しく生まれ変りその多くが復活しました.これがSilver Ageのはじまりです.そして,Marvel Comics社によるヒーローチーム,Fantastic Fourの発表とともにヒーローブームは再燃.また新たなヒーロー達が産声をあげました.その中にはSpider-man, Avengers, X-men, Hulk, Daredevil, Silver Surferなどがあります.これらのMarvel作品の多くがStan LeeとJack Kirbyというコンビによって作られたものでした.こうして新たに盛上がったスーパーヒーローコミックですが,しかし,1960年代後半には徐々に失速していきます.例えばX-MEN等は,1970年代前半から新作を作る予算がでず,これまでの話を再録するという事態に陥っていました.この1970年前後がSilver Ageの終りとされています.

コミック自体の値上げと言う理由もあったそうですが,おそらくそれは大きな理由ではないでしょう.原因は私には分かりませんが,おそらくコミックの中での勧善懲悪がうまくいかなくなった.そういう難しい時代に入って来たのだと思います.1980年代からのコミックは人種問題,ドラッグ,同性愛などの現実的問題に直接きりこんでいくようになりました.なぜそこまでしなくてはならなかったのか?それは,コミック読者たちの成熟のためだと思われます.コミックが子供のためだけという時代は終りに近付いていました.殺人という手段を厭わない狙撃者Punisher. ヒーロー活動に代価を求めるCage, ゲイであることを告白したAlpha FlightのNorthStar.様々な価値観が交錯する中で読者も執筆陣も苦悩することになりました.この1980年代以降をModern Ageと呼ぶそうですが,私にはその終りがいつなのかいまいち分かりかねます.テーマの複雑化にともない,ストーリーも複雑になってきました.複数のコミック間でのストーリーの連鎖をクロスオーバーといいますが,それ自体はGolden AgeのSub-MarinerとHuman-Toachの共闘が最初で新しい手法ではありません.しかし,それまでのクロスオーバーは単に人気のヒーローがゲスト出演する程度のものであったのに対し,この時代ではクロスオーバーが複数のヒーローストーリーを複雑に絡ませ大きな影響を与えるようなものになりました.また,クロスオーバーと銘打たなくとも,同じコミック会社のストーリーは暗示的に他のストーリーに影響を持つようになりました.勿論,こうすることにより多くのタイトルを購入させるという出版社サイドの意図もあったのでしょうが,それ以上にコミック読者が複雑さを求める傾向にあったためだと推察します.

1980年代〜1990年代は以上のように多くの複雑なストーリーと昏迷するテーマを絡ませ膨大かつ複雑なコミックの世界をつくりあげてしまいました.アメコミはアメリカ人の神話であると言った人がいるそうです.アメリカ人は自国の歴史が浅いため歴史を欲しているのだと.その論の是非はともかく,正直,神話以上になってしまいました.この膨大なコミック世界を全て読破するのは不可能になってしまいました.経済的にも物理的にも..マニアならいざしらず,一般の読者がどうやって読みえるでしょうか?日本でいえばゴルゴ13とこち亀と,まんだら屋の良太とジョジョの奇妙な冒険と,三国志を全巻あつめて初めて話が通じるというような事態です.つまり,アメコミはカタストロフをおこしてしまいました.実際,DC Comicsは一度すべてをナシにして1からやり直しなんてことをしたり,Marvel ComicsはHeroes Rebornシリーズで一部ヒーローの設定をやりなおし,Ultimate シリーズで旧来のシリーズと並行して新しい世界を構築したりとその後始末に追われています.そして21世紀.あのNYの世界貿易センターへのテロ行動を目の前にし,またスーパーヒーローたちの存在意義が問われることになりました.コミックの中で何度も世界を救ったヒーロー達が実際の事件を目の前に何もすることができなかった.瓦礫を前にしてヒーロー達は何が出来て何ができなかったのか?本当のヒーローとは誰だったのか?また,昏迷の時代がやってきそうです.

■ 日本とアメコミ

一方,日本ではコミックの代わりに漫画という文化がありました.この漫画の成立も新聞などの風刺漫画などから派生したもののようですが,なぜか日本にはヒーローものは定着しませんでした.確かに石ノ森章太郎や,永井豪,松本零士などの傑出した才能が数々のヒーローを生み出してはいましたが,コミックのそれのように主流におどりでることはなかったように思われます.一つには,コミックが経験したSilever AgeからModern Ageへのジレンマを比較的初期に漫画作家が意識していたこと.更に,漫画が作家主導型であるのに対し,コミックが出版社主導であることなどが原因として考えられるでしょう.そういった意味で日本の漫画は作家という個人の才能に依拠した為に早熟であったと思われます.

コミックが子供の読むものだと考えられていたのに対し,漫画は大人が読んでもおかしくないものと捉えられるようになりました.勿論,上記のように大人が読むに値する成熟を漫画が早期に実現していたからであり,様々な読者のニーズに応える懐の広さがそれを許容しているのでしょう.一方で日本の中で「アメコミ」というと,一般的にはあまり受けがよろしくありません.というのは,「アメコミ」=「勧善懲悪でマッチョで馬鹿馬鹿しい」というイメージが定着しているからだと思われます.それが全くの的外れだとは思いませんが,あくまでも誇張化されたステレオタイプ的イメージだと私は思っています.このステレオタイプ的イメージを逆手にとって描かれた漫画に「江戸前あめーりかん」というのがありますが,この作品自体が歪められたアメコミイメージをよく伝えていると思います.これはアメコミを愛する日本人としては悲しい現実なのですが致し方ないのかもしれません.

歪められたイメージの源泉は,アメコミが本来の姿で輸入されてこなかったからでしょう.アメコミはその本来の媒体である紙メディアよりも先に,アニメーションや映画で入って来ました.もともとケレン味たっぷりのコミックを映像化するわけですから,その姿は更に誇張されます.日本人のステレオタイプとしてのアメコミはやはりSupermanの映画であり,クラーク・ケントではなく,クリストファー・リーブでしょう.良くも悪くも映像作品は日本人にアメコミを印象づけてくれました.作品云々ではなくインパクトのある映像や展開に目がいってしまったのです.

一方でアメコミを本来の姿で伝えるメディアも少なからずありました.古くは光文社からスパイダーマンやファンタスティック・フォーなどが通常の新書判サイズで翻訳出版されていたり,月刊スーパーマンなんていうコミック雑誌も登場しました.今から20年近く前の話です.その時代から90年代に入るまでアメコミは日本で出版されませんでした.おりしも本国アメリカでは人気作家Jim LeeによってX-MENがリニューアルされ爆発的な売上げを記録していました.1990年のことです.人気は拍車をかけテレビアニメーションやフィギュアなどの玩具業界を巻き込みマルチメディア展開を広げていました.それに後を追うように1994年.日本でもアニメーションがテレビ東京で放映,それに伴いフィギュアも国内販売,小学館プロダクションによる翻訳コミック,CAPCOMによるテレビゲームなど,にわかにX-MENが盛り上がりはじめました.しかし,その人気も一時的なものでアニメーション終了とともにフェードアウトしていきました.一方で小学館プロダクションはアメコミの出版をやめませんでした.X-MENを基軸にSpidermanやGhost Riderなど,多くのキャラクターを紹介しつづけました.贔屓目にみても大ヒットしていたとは思えませんが,多くのファンを魅了していきました.同時にメディアワークスから新鋭のTodd McFarlaneによるSpawnが紹介されました.このメディアワークスもSpawnのみならず,GEN13,Wild C.A.T.S,WitchBladeなど最新のコミックスを翻訳刊行していき,日本の決して多いとはいえないファンに嬉しい悲鳴をあげさせてきました.これが日本におけるアメコミ黄金期で,1994年〜1998年ぐらいまでのことです.残念ながら2001年12月現在では両出版社とも刊行が停止しています.

■ インターネットとアメコミ

そして,供給が途絶えてしまった日本のアメコミですが,そこでめげて読むのをやめてしまうファンばかりではありません.ちょうど,X-MEN翻訳版が出版された1994年はインターネット元年とも呼ばれる年でした.いくつかの個人サイトが草の根でアメコミの素晴らしさを伝えようと生まれてきました.この「日ノ出」もそうしたサイトの一つです.中には光文社や月刊スーパーマンからのファンもいれば,2000年のX-MEN映画からという人もいますが,それぞれに独自色を示しネット上でアメコミは健在です!アメコミ自体が作画,ストーリー,色塗りなど分業制で作られており,また,アメコミから派生する様々なマルチメディアがあることから,ひとくちにアメコミファンといっても決して一枚岩ではないのですが,逆にアメコミは様々な角度から語ることができる恰好の素材であると考えることもできるでしょう.

「日ノ出」はアメコミを軸に様々な話題を提供し,そしてともに考え,遊び,ときに学んでいこうとするコミュニティサイトをめざしています.この米国漫画項は,書評やコラムなどを交えアメコミを楽しもうという主旨のコーナーです.難しく考えることはありません.一緒にアメコミを楽しんでいけたら幸いです.

(文責 えむはし軍曹 2001/12/24)

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